■第91回精神文化講演会を振り返って

平成28年4月14日午後9時26分に起こった熊本地震、16日未明には11年前に起こった阪神淡路大震災に匹敵するM7.3の巨大地震が発生し騒然とする中、17日当日も風も強く雨の降る生憎の天気にもかかわらず満員の聴衆を集めて、講演会が開催された。田中 裕、馬渕 睦夫 両先生に、幽玄と実生活を融合して独自の文化を形成してきた日本人、その哲学と感性、世界における日本文化の今日的役割についてご講演戴きました。

満員の聴衆の方々も熱心に聴き入り、物事の底にある真実に触れる機会となり、大変有意義な講演会となりました。

演題 : 「幽玄と物のあはれ」 -形なきものの形を見、聲なきものの聲を聞く-

上智大学教授 田中 裕 先生

田中裕先生には、先ず日本を代表する数学者で哲学者の岡潔先生の思想、無差別智と真情(偽らない心)、独自の仏教的世界観と意識、自明のことを自明とみる心を説明され、続いて、東洋思想と日本的霊性を深い宗教的自覚に基づき哲学として確立した西田幾多郎先生の思想を取り上げて、哲学の動機を悲哀と捉え、人生の深い悲しみから日常生活の深奥に形なきものの形を見、聲なきものの聲を聞き、そこに潜む真理を明らかにしようとする西田哲学を解説、次に先生の研究対象でもあるアメリカの数学者で哲学者のホワイトヘッドは、科学的唯物論を批判し、我々が活きて働く具体的な生活へと帰還を促し、科学と芸術と宗教を統合し、「調和の調和」としての「平和」という独自の文明論について解説され、本日の主題でもある「あはれ」の日本的意味、西洋的意味を解説、さらに西田幾多郎と鈴木大拙の関係や、般若や涅槃の意味、本居宣長の国学についても言及され、これらの人物が天地に物学ばんとし、物事の根底に在る真理を明らかにしようと生涯を賭して考え続けた情熱を、講演時間を超えて語られた。

演題 : 「世界を破滅から救えるのは日本精神だ」

元駐ウクライナ大使 馬淵 睦夫 先生

馬渕睦夫先生は、先ず世界戦争の危機が迫っている事を述べられ、その陰に国際主義者の暗躍があり、世界の政治や経済を牛耳るのは、国家でもない、その政府でもない大富豪の個人金融資本であるとし、米国FRB、ウォール街を支配し、米国のためにという事ではなく自らの利益のために動いている事を明らかにされた。米国での大統領の予備選挙はグローバリズムとナショナリズムの対立の様相を呈し、テロ戦争では、戦争の民営化はグローバル市場化への手段となり、対テロは米国とロシアの協調を模索し、その国際紛争の真相は我々が目にするものとは全く違う事を明らかにされた。そして世界戦争を阻止する方法が日本にあるとして、グローバリズムとナショナリズムを両立して来た日本に、ロシアは注目しその方法を学ぼうとしている事、物質主義と精神性のバランス、世界文化の自国文化への同化力、道義性の高い日本国民の人間観と世界観が世界を共同体へと導くと説かれた。神話以来、神と自然と人間の一体感を醸成してきた日本文化が、今日の国際情勢の危機的状況を打開する鍵である事を熱く説かれ締めくくられた。

講演を振り返って
―日本文化の神髄は、形なきものの形を見、聲なきものの聲を聴き、幽玄と実生活を融合したもの
なのです。

現代人は、科学技術の長足の進歩により、極めて便利な生活に慣れて、物事を深く考えることをしなくなってしまいました。「考える」とは本来、「神迎える」という事であり、形なきものの形を見、聲なきものの聲を聞く態度に他ならない。古今の哲学者も、講演で挙げられた岡潔先生も西田幾多郎先生もホワイトヘッドもそうであった。

日本人は本来、自他一体感を「物のあはれ」と捉え、内在的超越を通して神を直観し、「神と自然と人間の調和」を実現し、幽玄と実生活を融合してきた民族である。その思想と普遍性は、今日の緊迫する国際情勢を打開し、世界を平和に導く大きな力になる事が明らかとなった。グロ―バリズムとは、国際主義者の戦略であり己の利益のみを追求する姿である事が明白になった以上、私達日本人は、一人ひとりが日本文化の神髄を理解し、意識を改革し、日本人としての誇りと自信を取り戻し、それを以て真の世界平和に貢献しなければならない使命感を覚える講演会となりました。

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